新型コロナ感染症は基礎疾患があると重篤化し易い。
新型コロナウイルスの感染力は強まったが、死亡率は低下したといわれています。一方、基礎疾患がある場合やと70歳以上だと死亡率は依然として高いがことも報告されています。
歳を取ると、免疫機能が低下します。原因は、①食べる量が減ってきた、②運動量が落ちてきた、などが基礎代謝の低下によって生じます。
自然免疫では、いわゆる好中球、マクロファージといった骨髄系の白血球が主に働きます。加齢に伴って、白血球機能が低下すると、ウイルスだけでなく肺炎球菌などの細菌も含めて病原体を排除する力が弱まってきます。白血球を増やすためには基礎代謝をアップさせるlことが大切です。
炎症を抑えようとする抗炎症の働きをするマクロファージも出現しますが、線維芽細胞を呼び寄せ、コラーゲン線維を作らせ線維化させます。線維化が起こると、老化細胞を多くなり、炎症が起こるために肺や肝臓の働きが低下します。慢性炎症が起こらないようにするのが大事です。
ビタミンDとケルセチンは抗炎症効果があることが知られています。
<ビタミンD>
ビタミンDは皮膚の細胞で作られます。紫外線対策をしたり、紫外線が弱い冬場はどうしてもビタミンD不足気味になります。
ビタミンDは「骨のビタミン」と考えられてきましたが、今では「免疫のビタミン」といわれており、免疫のバランスを保つのに重要な働きをしています。
日本では健康診断でビタミンDの血中濃度を測定しないので自分の血中濃度は分かりません。ビタミンDにOH基が一つ付いた25-OH-D3の血中濃度を測定し、30ng/mL以上が十分量であると国際的に認められています。残念ながら、日本人の7~8割の人は不十分か欠乏状態にあるといわれています。
ビタミンDを増やすために日光浴だけでなく、動物由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)を摂取する必要があります。キノコなど植物由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)はビタミンD3と構造が少し異なります。脂溶性のビタミンDが働くためにはタンパク質の受容体と結合する必要があります。ビタミンD2は構造が異なるので結合し難くといわれており、きのこのビタミンD2は効果を期待できません。
活性型ビタミンD3(1,25-(OH)2-D3)の濃度は腎臓の酵素で厳密にコントロールされており、作られても数時間後には分解されるので絶えず合成する必要があります。活性型ビタミンD3は細胞内の受容体に結合し、炎症を引き起こす遺伝子に結合してサイトカインを作らないようにして抗炎症作用を発揮します。新型コロナ感染対策として、米国ではビタミンDの血中濃度を40~60ng/mLにすることを推奨されています。
<ケルセチン>
ケルセチンはポリフェノールの一種のフラボノイドの一つです。ぶどうにはカテキン、エピカテキン、アントシアニンなどのポリフェノールが入っていますが、ケルセチンも含まれています。ケルセチンは玉ねぎの皮に多く含まれていますが、それでも十分量とはいえません。
ケルセチンは抗酸化作用で知られていますが、実は抗炎症作用の方が重要です。炎症性サイトカインを作るマクロファージの細胞膜にケルセチンが作用し、炎症のシグナルが入るのをブロックすることを既に報告しています(Kaneko et.al 2008.研究業績#12参照)。ケルセチンが膜に作用すると、「炎症を起こせ!」というシグナルが細胞内に入らないようにブロックします。
ケルセチンは「炎症を起こせ!」というシグナルがブロックしますが、細胞内に「炎症を起こせ!」というシグナルが入ってしまっても、ビタミンDが遺伝子が働らきかけ炎症を引き起こすTNF-α合成を起きないようにします。
ビタミンDとケルセチンの相互作用で炎症をストップさせます。
日本人の半数はビタミンDが不足しているのをご存知ですか?
科学雑誌「Nature」にいろいろな病気の根源にあるのが慢性炎症という記事がでました。 「慢性炎症」は色々な病気の根本原因ですが、「ビタミンD不足」も骨だけでなく、免疫系に対する働きもあるので、ビタミンD不足になると慢性炎症になり易いのでいろいろな病気に関わっています。
かって、ビタミンDは骨のビタミンという認識でしたが、今では抗炎症作用が重要視されています。肥満も慢性炎症です。筋肉にも、動脈硬化にも、がんにも、アレルギーにも、アルツハイマー病にも、その他いろいろな病気の根源にビタミンDが影響を与えています。
最近のビタミンDは摂取量よりも、血中濃度が問題になっています。欧米では中間体25-OH-Dの血中濃度が30ng/mL以上を十分量、29~20ng/mLは不十分、19ng/mL以下は欠乏となっています。米国では、新型コロナウイルス対策として、40ng/mL以上が推奨されています。
紫外線UVBにより皮膚の細胞によってビタミンD3がつくられます。夏場なら大半は自分で作ることができますが、日焼け防止を完璧にすると、自前でビタミンDを作れません。30ng/mL以上にするには食品からでは無理だといわれています。多くの人が「かくれビタミンD不足」になっています。
ぶどうの果皮・種子に含まれる、ファイトケミカル(テルペノイド、カロテノイド、フラボノイド)が炎症反応を抑制することで、消化管に関連したいろいろな疾患に対して改善作用を示すことを多くの論文を参考にして纏めたものです。Vino Science Japan関連論文です。
Prevention of Metabolic Syndrome by Phytochemicals and Vitamin D. Int J Mol Sci. 2023 Jan 30;24(3):2627. doi: 10.3390/ijms24032627.
2. Santa K, Watanabe K, Kumazawa Y, Nagaoka I. Phytochemicals and vitamin D for healthy life and prevention of diseases. Int. J. Mol. Sci. 2023 Jul 29;24(15):12167. doi: 10.3390/ijms241512167.
3. Santa K, Kumazawa Y, Nagaoka I. Prevention of Metabolic Syndrome by Phytochemicals and Vitamin D. Int. J. Mol. Sci. 2023 Jan 30;24(3):2627. doi: 10.3390/ijms24032627.
4. Santa K, Kumazawa Y, Nagaoka I. The potential use of grape phytochemicals for preventing the development of intestine-related and subsequent inflammatory diseases. Endocr Metab Immune Disord Drug Targets. 2019. 19 (6): 794-802. doi: 10.2174/1871530319666190529105226.
肺線維症は、間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患COPDに共通して生じるものです。
肺に慢性的な炎症が起こるとガス交換を行う肺胞Ⅱ型細胞にダメージが生じます。炎症が起こるとTGF-βというサイトカインが作られます。TGF-βは炎症の部位に線維芽細胞を集積させ、コラーゲンを大量に作ります。コラーゲン線維が蓄積した肺線維症が引き起こされます。症状が酷くなると、呼吸困難になり、薬剤による治療が困難なため、致死的な疾患になります。
Liuら*は肺線維症の動物モデルにぶどう種子抽出物GSEを与えるとコラーゲンの沈着が抑制され、肺線維症が抑制されることを前に示していました。今回、GSEを50㎎/kg、100 mg/kgの用量で3週間経口投与したところ、炎症性細胞の浸潤、炎症性サイトカイン、コラーゲンに特徴的なアミノ酸の沈着が抑制され、肺機能も改善した。肺の炎症にかかわるMMP-9という酵素やTGF-βというサイトカインの発現が抑制されたので、肺線維症の患者のQOLの改善に役立つと示唆しています。
*Liu Q et al. Toxicol Lett. 2017 Mar 11.pii: S0378-4274(17)30106-6. doi: 10.1016/j.toxlet. 2017.03.012.
ぶどうファンタジーは甲州種ぶどうの果皮と種子を植物性乳酸菌で発酵したもので、GSEに相当する物質も含まれています。間質性肺炎の患者様がぶどうファンタジーを摂取されて、状態が炎症が改善されているという報告を受けています。
Dengら*は結合組織に関連した間質性肺疾患(CTD-ILD)の患者では、血液中のビタミンD濃度が有意に低いことを示しました。血清アルブミン濃度が低く、抗核抗体値が高いこととビタミンD濃度が低いことと関連していました。*Deng M et al. Clin Exp Rheumatol 2018 Nov-Dec;36(6):1049-1055. Epub 2018 May 24
閉経後の骨粗鬆症
ぶどうの表皮にあるオレアノール酸 (OA) を骨粗鬆症モデルラットに毎日20mg/kgの用量で3か月間与えたところ、骨を作る細胞(骨芽細胞)が増え、オステオカルシンなど骨が増えるのに必要な遺伝子発現が高まっていた(Bianら Menopause 2012)。
オレアノール酸は胆汁酸受容体に結合して働く
オレアノール酸(OA)は、ぶどうファンタジーの主成分の一つであり、胆汁酸の受容体にTGR5に結合し、胆汁酸と同じように働くことが分かってから、その作用に関する研究が増えています。さらに、抗ガン作用、抗炎症作用、抗糖尿病作用などがあることも分かっています。オレアノール酸はぶどうファンタジーの主成分の一つです。
更年期になると、エストロゲンが減少し、骨粗鬆症や動脈硬化が起きやすくなります。
米国人閉経後の女性20人にぶどうの粉末(LGP)36グラムを4週間摂取して貰い、血漿中の脂質、炎症性サイトカイン、酸化ストレスについて調べた研究があります。ぶどう粉末LGPの摂取により、血漿中の脂質(トリグリセリド)や悪玉LDL-コレステロールが低下した。また、炎症性サイトカインのTNF- α産生も抑制されたという、有益な結果が得られています(Zernら J Nutr. 2005)。
韓国で、閉経後の女性に果実、野菜、大豆食品など、どのような食品を食べているかを質問したところ、ぶどうを良く食べる人では、乳がんの発症リスクが低下していた。トマトや大豆も同様の効果があった (Doら Int J Vitam Nutr Res 2007)。
更年期になると、ホットフラッシュに加えて、ストレスによるうつ、不安症、記憶の低下、高血圧になりやすい。
更年期になると、40%の人がうつ・不安症・記憶の低下・高血圧といった症状を経験します。ポリフェノールが多いぶどうの粉末を更年期になったラットに投与すると、複数の研究で更年期の不安症、記憶の低下、高血圧が改善されるという画期的な研究をヒューストン大学の研究グループがレベルの高い学術誌 (Patkiら PLos One 2013)に発表しています。
みかんや金柑の皮に含まれるβ-クリプトキサンチンが骨粗鬆症の予防に役立つことを農研機構の研究で明らかになっています。みかんの皮にはヘスペリジンというフラボノイドは入っていて、血流が改善することも明らかになっています。
紫外線UV-Bが日焼けの原因とされています。日焼けをしすぎると皮膚に炎症が起こり、免疫力を弱め、皮膚がんの原因になります。一方で適度な日光浴は皮膚の細胞がビタミンDを作り、ビタミンDが健康に役立っています。多くの人が過度の日焼け防止対策により、逆にビタミンD不足になり、いろいろな病気を引き起こしています。
ぶどうファンタジーの原料である発酵ぶどう食品K-FGFが、紫外線照射による皮膚の炎症を抑制すること、メラニン合成を阻害する作用のあることを証明しています。長年ぶどうファンタジーを飲んでいる人から皮膚の黒い色素が薄くなってきたという連絡がありました。
Katiyarらは紫外線照射でがんが起こる動物に、ぶどう種子のプロアントシアニジンを与えると、①炎症が抑制され、②損傷を受けた遺伝子DNAを修復し、③免疫系を刺激することにより、がんの発症を抑制するという効果があるということが報告しています(Katiyar Mol Nutr Food Res 2016).
適度な日光浴によりビタミンDの血中濃度を高める、そして、ぶどうファンタジーを摂取することで紫外線の多い夏場を乗り切りたいものです。
発酵ぶどう食品K-FGFの抗アレルギー作用(花粉症など)に関する論文が発表されています。
発酵ぶどう食品K-FGFのを動物モデルに与えると、2型糖尿病、リウマチ、潰瘍性大腸炎、皮膚の炎症などの症状が改善されています(研究論文を見て下さい)。
DDSとい薬物で誘導する潰瘍性大腸炎モデルに対し、K-FGFが大腸が短くなる症状を抑制し、TNF-α産生を抑制していますが、現在、腸内細菌叢に対する働きを試しています。
突発性間質性肺炎の患者様からも症状が改善したという報告を受けています。
ぶどうやブルーベリーが犬に良くないという話でしたが・・・
ポリフェノールが多いぶどうやブルーベリーの抽出物(FEGE)を4, 20, 40 mg/kgの用量で24週間、犬に与えて安全性をテストしました。ぶどうとブルーベリーの成分を血中で認めましたが、腎毒性と肝毒性を示すマーカーに大きな変化は認められず、FEGEの毒性を認めませんでした。
PEGBというのは、Neurophenols Consortium社の商品で、ぶどう(Vitis vinifera L.)とブルーベリーの抽出物です。PEGBには、カテキンなどの単量体(6%)、オリゴ体、フラバノール(0.15%)、アントシアニン、フェノール酸、レスベラトロールなどが含まれていました。ぶどうやブルーベリーが犬には毒だという論文がありますが、考えられないほどの、非常に大量を与えられていたためだと推察されています。
年取った犬の健康はとても心配です。人の健康に良いという、ぶどうの成分を犬にも与えられることが分って良かったです。
<発酵ぶどう食品・フラボノイド関係>
<その他>
ママキッズフェスタで講演をしたとき、乳製品に対する食物アレルギーがある子供のお母さんから「お医者さんから打つ手がないといわれて困っている」と相談されました。最近の研究では、妊娠中にビタミンD欠乏症になると、産まれてきたお子さんが喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーになり易いといわれています。幼児期(0歳頃)では食物アレルギーとアトピー性皮膚炎が一緒になっていますが、学童期(6歳以上)になると、食物アレルギーが減ってアトピー性皮膚炎になるようです。
幼児期の食物アレルギーは、鶏卵、牛乳、小麦、そば、魚類、ピーナッツなどを食べると症状が食後30分以内に現れます。本来なら、食品に含まれるタンパク質に反応しない「免疫寛容」という状態になっており、食物アレルギーが起きません。免疫寛容は免疫を負にコントロールする制御性T細胞が働いているために維持されています。お母さんのビタミンDレベルが低いと制御性T細胞の数が少なく、活性化が低いことが分ってきました。お子さんの食物アレルギーやアトピー性皮膚炎はお母さんの活性化型ビタミンD3レベルが十分なことが予防の第一歩になります。
制御性T細胞は子供の頃に色々な細菌に触れる機会が多いと誘導され、活性化することが知られています。米国のアーミッシュと呼ばれる人たちは、宗教上の理由で200年前のヨーロッパの生活スタイルで日々過ごしていますが、都会に住む子供達より花粉症やアトピー性皮膚炎が非常に少ないことが知られています。家畜と一緒に生活していると、自然と細菌に触れることがおおくなり、制御性T細胞が活性化されるためだと考えらています。
ビタミンDは日光浴により皮膚の細胞により作られます。肝臓の酵素で25‐OH-Dになり、腎臓などの酵素で活性型の1,25ー(OH)2‐D3が作られます。作る量と分解する量が厳密にコントロールされています。
妊娠中だけでなく、母乳中のビタミンDレベルにも注意を払う必要があります。成人では血液中の活性型ビタミンD3のレベルが30ナノグラム(ng)/mL以上であればよいですが、19ng/mL以下だとビタミンD欠乏症だといわれています。ビタミンDは日光浴が少なくなる冬場では減少することも知られています。
母乳をあたえると、お母さんの免疫(IgA抗体)を赤ちゃんに伝えられるので母乳が増えていますが、母乳を与えていた赤ちゃんがクル病になったというニュースがありました(NHKおはよう日本2013.10.17)。クル病はビタミンDが欠乏して起こる病気です。
大腸には100兆個の細菌が住んでいるといわれています。皮膚にはその1/100といっても1兆個の細菌が住み着いています。最近では、何でも「除菌、除菌!」といっていますが、自分の皮膚に共生している細菌を除菌したらバリヤーがなくなってむしろ害のある細菌の侵入を許すことになります。「免疫力アップ」とよくいいますが、むしろ免疫のバランスを保つことが健康維持に重要です。食物アレルギーの赤ちゃんの免疫力をアップしたら、原因となるIgE抗体が大量に作られ、むしろ症状がひどくなります。
制御性T細胞が殖え、機能を発揮するものはビタミンDだけではありません。イリッロ教授(イタリア・バーリ大学医学部)との共同研究で、ヒト末梢血白血球を発酵ぶどう食品(FGF)と一緒に培養すると、制御性T細胞が殖えることを報告しています(文献)。(平成27年11月19日改訂)(文責:熊沢義雄)
参考文献
Marzulli G, Magrone T, Kawaguchi K, Kumazawa Y, Jirillo E. Fermented grape marc (FGM): immunomodulating properties and its potential exploitation in the treatment of neurodegenerative diseases. Curr Pharm Des, 18: 43-50, 2012.
乳がんに対するぶどうポリフェノールと茶カテキンの作用についての研究論文情報です。乳がんの細胞に対するぶどうや緑茶の成分が効果を示すという論文は多数あります。有効成分が生体内に取り込まれてどの程度活性を示すかbioavailability(生物学的利用能)を考慮する必要があります。
緑茶生産地では1日に10杯以上飲む方がおられます(茶カテキン量として1000~1500mg)。緑茶抽出物については米国のFDAで安全として認められる食品のリストに入っています。特定保険用食品と表示されている茶系商品の摂取目安は茶カテキン量としておよそ500mgです。研究で使われている量の目安になり、緑茶の主な活性成分はエピ・ガロ・カテキン・ガレート(EGCG)です。乳がん細胞を用いた研究が多いようです。
便秘はNHKの「試してガッテン」や「あさイチ」で対処法が取り上げられているように、便秘は健康と美容にとって大敵です。腸のぜん動運動が少ないと便秘が起り易くなり、多いと下痢になります。男性よりも女性の方が便秘になり易いですが、60歳を過ぎて運動機能が低下すると男女ともに便秘になり易くなります。便秘対策に運動が大切です。また、冷え性の人は便秘になり易いともいわれており、体を暖め血液の循環を良くすることも大切です。便秘が無くなり、血流が良くなり、炎症が少なくなれば内面美容になります。
● 植物性女性モルモンのエクオールと果実の成分
女性ホルモンのエストロゲンは女性の健康と美容にとって重要なホルモンです。閉経によりエストロゲンの分泌が低下すると、骨粗鬆症になり易くなり、美容にとっても肌の老化に繋がります。大豆イソフラボン(フラボノイドの1種)のダイゼインは腸内細菌によってエクオールという物質に変わり、エストロゲン作用を示します。しかし、ダイゼインをエクオールに変換できる腸内細菌を持つ人は2人に1人、若い女性では欧米人のように3人に1人です。今春の日本細菌学会のシンポジウムで、エクオールを分解する細菌がいることも報告されました。エクオールをサプリとして摂取しても分解する菌がいたら良くないですよね。ダイゼインと難消化性デンプンを一緒に摂取すると善玉菌であるビフィズス菌が増えます(1)。内面美容のためには腸内フローラを自分で育て、エクオールを作ることができるようにすることが大事です。エクオールを作れない人はエストロゲンが急速に減少するため内面美容が衰えてきます。
温州ミカンを1日4個食べると骨粗鬆症になり難くなる、その理由はβクリプトキサンチンというカロテノイドが血中に増えるためだ、という農研機構の研究があります。また、ワインに含まれるデルフィニジニンというアントシアニンの1種がエストロゲン受容体に結合し、一酸化窒素NO産生を誘導することで血管に弾力性を持たせるという報告(2)もあります。内面美容のためには、水溶性食物繊維の多い食べ物と共に野菜や果実に含まれるフラボノイド(ポリフェノールの一種)を摂取し、内面美容に役立てたいですね。
● 便秘と腸内フローラ
腸内フローラは食事と密接に関連しており、肉食が多いとファーミキュウテス(F)門の細菌が多くなり、バクテロイデス(B)門の細菌が少なくなります。F門には悪玉菌のクロストリジウム属細菌が、B門には日和見菌といわれているB門の細菌がいます。善玉菌のビフィズス菌はアクチノバクテリア(A)門に属しています。野菜や果物を一杯取ると自然に食物繊維を多くとることになり、また、ポリフェノールも摂ることができます。発酵食品を摂ることにより善玉菌が増えてきます。便秘で宿便ができ、老廃物が放出されると、腸管の粘膜の細胞は直接被害を受けることになります。老廃物による刺激が発がんに繋がり、女性に大腸がんが多くなっています。不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らむので便秘になり易いといわれています。一方、水溶性食物繊維は便通をスムーズにします。野菜や果物に含まれるフラボノイド(ポリフェノールの一種)は有害な大腸菌やサルモネラ属の細菌に対し抗菌活性を示しますが、乳酸菌には抗菌作用を示しません。茶カテキンもフラボノイドの仲間で抗菌活性があります。フラボノイドは腸管の細胞に直接作用し、炎症を抑える働きもします。
● 便秘と冷え性
冷え性の人は便秘になり易い傾向があります。NHKのあさイチで四肢末端型、下半身型、内蔵型の三種類の冷え性を紹介しています。内蔵型は手足は暖かいのに腸などの深部体温が下るタイプ。もともとの体質、不規則な生活が続いたり、仕事などの肉体的・精神的なストレスが長く続くと、内蔵型冷え性になるリスクが高まります。コリで筋肉が硬くなり、交感神経優位となり、血管が収縮し、血流が少なくなります。腸の温度が低くなると蠕動運動も弱くなり、便秘になります。運動によって熱を生み出す筋肉を充実させ、腸内環境を良くすると免疫力もアップします。
便秘を改善するには先ず水溶性の食物繊維を摂ることですが、腸の蠕動運動を高める必要があります。便秘防止には運動が一番です。外から腸を揺らすマッサージが効果があるともいわれています。血流が良くなることで冷え性も改善され、腸の環境も良くなります。血流を改善するものとして、赤ワイン、陳皮(みかん)のヘスペリジン、生姜のショウガオール、梅肉エキスのウメフラール、タマネギのアリル化合物、ケルセチンなどが知られています。赤ワインにはアントシアニンを始めとして種々のフラボノイドが含まれており、フラボノイドのヘスペリジンやケルセチンは血流を良くするビタミンPともいわれています。血流を良くすることで腸の冷え性を改善するだけでなく、フラボノイドは腸の炎症を抑える作用があります。
【文献】
NHKスペシアルで「腸内フローラ」が放送されから健康と腸内細菌との関わりが注目されています。私達の体には色々な細菌が住みついており、共に生きているということから「共生細菌」ともいわれています。人間の細胞の総数は60兆個ですが、大腸には100兆個の細菌が住んでいます。腸内細菌の重さは1kg以上もあり、体重の一部となっています。
● 細菌の種類
腸内フローラは母から子へ、食べる料理によって腸内に住みつく細菌の種類も決まってきます。細菌は門、綱、目、科、属、種の順で系統的に分類されており、腸内で一番増殖している菌はファーミキューテス門(F門)、バクテロイデス門(B門)、アクチノバクテリア門(A門)などです。肉食が多いとB門の細菌が激減し、F門の細菌が大半を占めるようになります。F門には悪玉菌といわれているクロストリジウム細菌が属しています。発酵食品、野菜、果実を食べることで、A門に属する善玉菌のビフィズス菌が増え、日和見菌といわれているB門のバクテロイデス属細菌も増えてきます。長寿の人、健康な人はビフィズス菌を始めとして、多種多様な細菌叢をもっています。炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎の患者では、細菌叢の多様性が少なくなっています。
● 高脂肪食による腸内環境の悪化と改善
高脂肪食を食べるとB門の細菌が消え、殆どがF門になります。F門のクロストリジウム属細菌が増えて腸内環境が変わり、デオキシコール酸という二次代謝産物を作るようになります。デオキシコール酸は肝臓でRas遺伝子に変異を誘導し、肝がんの発がんを誘導することが報告されています(1)。油の多い肉料理を一杯食べて、コーラなど甘味飲料を飲む、すなわち高脂肪食+高果糖液糖を摂取すると、F門の細菌を育てることになり、生活習慣病、動脈硬化などへまっしぐらとなります。高脂肪食を食べるとき野菜を果物を食べたら良いのでは?と考えられます。高脂肪食・高果糖の餌を与えたマウスに、レスベラトロールやケルセチンを一緒に与えると腸内環境はどうなるでしょうか?レスベラトロールは腸内環境を改善しませんでしたが、ケルセチンは改善したという報告(2)があります。ケルセチンは玉ねぎやぶどうの果皮など色々な野菜や果実に含まれています。
● 食物繊維とフラボノイド
食物繊維は不溶性と水溶性の二種類がありますが、多くの食品は不溶性と水溶性の食物繊維の両方を含んでいます。大麦には水溶性食物繊維の方が不溶性食物線維より多く含まれていますので大麦の摂取をお勧めします。不溶性食物繊維は便秘になり易いといわれています。植物の細胞壁は不溶性食物繊維ですので食物から摂取できるのでサプリとして積極的に取る必要はありません。食物繊維と一緒にケルセチンのようなフラボノイド(ポリフェノールの一種)を摂取することで腸内環境が良くなります。フラボノイドが健康な腸内環境へ導く舵取り役になっていると考えられます。
● 赤ワイン中のケルセチン
甲州種ぶどうのポリフェノール含量は赤ワインの品種より多いことが山梨県工業技術センターの研究で明らかとなっています。赤ワインはアントシアニン系のポリフェノールが多いですが、甲州種ぶどうにはアントシアニン系以外のポリフェノールが多いことを示しています。ぶどうや玉ねぎに含まれるケルセチンは腸管から吸収されるとグルクロン酸と抱合体になり血液中に存在します。神経のニューロン細胞にケルセチン・グルクロン酸抱合体を作用させると、アミロイドβの産生が抑制されましたが、アントシアニン系のマルビジン・グルクロン酸抱合体には抑制作用がないことが報告されています(3)。アミロイドβはアルツハイマー病の原因となる物質です。
● 短鎖脂肪酸と受容体
米国の「ファイブ ア デイ」運動は、野菜350g、果実200g以上を毎日摂取しましょう、というものですが、食物繊維、カロテノイド、フラボノイドの摂取がポイントです。腸管はムチンと呼ばれる粘膜で覆われていますが、腸管から体内に取り込まれなくても、カロテノイドやフラボノイドは直接腸管に働きかけることができます。発酵ぶどう食品FGFが潰瘍性大腸炎の動物モデルで悪玉サイトカインのTNF-αの大腸での産生を抑制していたことから、フラボノイドが直接腸管の細胞に働きかけて抗炎症作用を発揮したと推察しています。食物繊維も腸内細菌で分解され、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)になります。これらは腸管の短鎖脂肪酸受容体を介して、また直接体内に取り込まれて体内の短鎖脂肪酸受容体を介して体に働きかけています。酪酸が免疫にブレーキをかける「制御性T細胞」を活性化することも知られています。
● 健康な腸内環境にするためには
健康な腸内環境はどのような食事を取るかにかかっています。野菜やフラボノイドを多く摂取することは、食物繊維だけでなく、カロテノイドやフラボノイドが腸内環境を育てる一員になっていることを認識する必要があります。「ぶどうファンタジー」は炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の患者様にご愛用戴いています。「ぶどうファンタジー」が健康な「腸内フローラ」作りに貢献することを願っています。
【文献】
文責:熊沢義雄(順天堂大学医学部非常勤講師、前北里大学教授(生体防御学)、前マックスプランク免疫生物学研究所客員研究員) (2015.6.4)
食物アレルギーは、特定の食品を飲食することで、食品に含まれる成分に対して免疫反応が生じ、アレルギー症状が発生することです。日本では食品衛生法施行規則などにより、特定原材料などの表示の義務付けや推奨が規定されています。
何故、多くの人が食べている食品に対して食物アレルギーが生じるのでしょうか。多くの人達は食物成分に対して反応しないようになっており、これを免疫寛容と呼んでいます。すなわち、食物成分に対する免疫が起らないようにある種のTリンパ球が働いているからです。
アレルギー反応はI型~IV型の4つのタイプがあり、花粉症はI型アレルギーに属し、IgEというクラスの抗体が主役になっています。IgE抗体のレベルが人よりも高いのにアレルギー症状を示さない人達がいます。この人達に存在するあるT細胞(Tリンパ球)が重要な働きをしています。このT細胞はCD4+Foxp3+という表面抗原を持っており、その割合は同じようにIgE抗体レベルが高くアレルギーになる人達より高いことが知られています(文献1)。
Foxp3という遺伝子に変異があり、または発現し難い人達では、アレルギーになり易いことも分かっています。
ではCD4+Foxp3+ Tリンパ球は何者でしょうか。Tリンパ球(T細胞)は表面抗原の違いから、CD4陽性(+)とCD8陽性(+)に分けられます。CD4陽性T細胞は、産生するサイトカインにより、1型ヘルパーT細胞(Th1)、2型ヘルパーT細胞(Th2)、インターロイキン(IL)-17を作るTh17があります。CD4+Foxp3+ T細胞は、制御性T細胞(Treg)ともいわれており、Th1, Th2, Th17によって起る炎症反応や免疫反応を制御する作用があります。
食物アレルギーが起る人と起らない人の違いが制御性T細胞の働きに違いがあるのではないかと考えられてきています。通常、食物として大量に摂取すると、食物中の成分、特にタンパク質に対して反応することがないよう制御性T細胞が働いていますが、何らかの要因によって、食物中のタンパク質に対して免疫が誘導され、制御性T細胞が働きにくい状態になると食物アレルギーが起ると考えられています。従って、腸管のパイエル板や脾臓中の制御性T細胞の割合を高める手法が求められています。抗原(アレルゲン)を頻回投与することでアレルギーになり難くする方法もあります。効果は確かめられていますが、治療には長期間掛ることと治療中にアレルギー反応(アナフィラキシー反応も含む)が起る可能性も残されており、機能性食品による制御性T細胞の誘導も重要な一つです。その候補としてある乳酸菌が挙げられています(文献2)。
イリッロ教授(イタリア・バーリ大学医学部)との共同研究で、ヒト末梢血白血球を発酵ぶどう食品(FGF)と一緒に培養すると、CD4+Foxp3+制御 T細胞の割合が高まることを報告しています(文献3)。花粉症などのI型アレルギーにを改善するために、Th1/Th2バランスの修復することを考えていますが、これからは制御性T細胞の誘導も考慮する必要があります。FGFがTh1とTh2バランスの改善だけでなく、制御節性T細胞がFGFにより誘導できることが証明されれば、食物アレルギーに対する健康補助食品となることが予想されます。(平成24年9月1日、平成26年4月10日改訂)(文責:熊沢義雄)
参考文献
TNF-αは「腫瘍を壊死させる因子」として始めは考えられていました。その後、炎症を誘導するたんぱく質であることが明らかとなり、今ではTNF-αは前炎症性サイトカインとして知られており、急性炎症と慢性炎症を誘導します。近年、抗TNF-α抗体がリウマチなどの治療に使用され、劇的な効果を上げています。
TNF-αが関連する疾患として、急性炎症では全身的炎症の敗血症、多臓器不全など重篤な疾患があります。原因物資の一つとしてグラム陰性細菌の外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)があり、LPSがマクロファージに作用するとTNF-αが作られます。LPSがトル様受容体TLR4(ノーベル医学・生理学賞の項を参照)に結合し、そのシグナルが細胞内に伝達されるとTNF-αが生合成されます。ブルース・ボイトラー教授はTNF-αの発見者であり、TLR4の発見者でもあります。
慢性炎症では、2型糖尿病、リウマチ、炎症性腸疾患などはTNF-αが原因となっています。2型糖尿病は、TNF-αがグルコーストランスポーター(GULT4)の生合成をオフにすることにより、インスリン抵抗性が誘導され、インスリンがあっても利用できない状態となります。それを抑制する(GLUT4の生合成をオンにする)のがアデイポネクチンです。肥満に伴い筋肉細胞にTLR4の発現が亢進し、刺激によりTNF-α産生が起り、炎症が誘導され易い状態となっている。肥満も炎症の一種とみなされています。日焼けによる肌のシミも炎症ですし、老化物質AGEsがマクロファージを刺激してTNF-α産生を誘導します。「老化は炎症の蓄積」ということもできます。
マラソン選手の疲労骨折は、過酷な練習により筋肉に炎症が誘導され、TNF-αが作られたために起ると考えられています。骨は吸収と再生のバランスで成り立っていますが、TNF-αによって骨吸収を担う破骨細胞の活性化され、骨量の減少へと誘導されます。従って、TNF-α産生を制御することで疲労骨折を予防できるといえるでしょう。激しい運動に炎症は付き物なので、炎症によって生じる障害を防御するためにTNF-α産生を制御することは重要な課題だと考えられます。(平成26年4月14日改訂)(文責:熊沢義雄)