肺は気道を通じて外環境に暴露されており、細菌、ウイルス、プロテアーゼ、大気汚染物質などが絶えず流入し、少しずつ傷害を与えています。正常な肺では日々再生を繰り返しており、外部因子による傷害も絶えず修復されている。風邪を引いた時に咳や痰がでますが、これは侵入した細菌やウイルスを排除しようとする防御反応の一つです。
喫煙などの酸化ストレスによって炎症が誘導されます。また、薬物の摂取が持続的な刺激となって肺に炎症が起こる場合があります。酸化ストレスによって好中球が出現しますが、寿命が短いので死んでいきますが、その時NETsという細菌やウイルスを殺し働きのある物質を放出します。NETsは微生物だけでなく、自分の組織にも炎症を引き起こします。これが持続すると通称タバコ病といわれるCOPDの原因になります。
炎症はマクロファージによりTNF-αというサイトカインなどによって引き起こされます。TNF-αに続いて白血球を呼ぶIL-8、や炎症を拡大するIL-6といったサイトカインも作られ作られます。持続的な刺激で慢性炎症が起こると、炎症を抑え封じ込めるためにTGF-βが作られ、線維芽細胞が誘導され、コラーゲン線維が作られます。
TGF-βは炎症を抑えますので、一見良いように思われますが、炎症を封じ込めるために線維芽細胞を呼び寄せます。線維芽細胞は間質でコラーゲン線維を作り、封じ込めのために蓄積します。コラーゲン線維が蓄積すると肺胞の働きが悪くなり息苦しくなります。これが間質性肺炎です。
TNF-α産生が抑制されると、TGF-βの産生も減少しますので、先ず炎症を引き起こすTNF-α産生にブレーキを掛けることが必要です。ステロイドはTNF-α産生を強力に抑制しますので急性増悪の際にはステロイドのパルス療法が行われます。
TNF-α産生にブレーキ役として働くのがビタミンDであり、野菜や果実に含まれるファイトケミカルズです。ファイトケミカルズは、テルペンなどテルペノイド、βカロテンなどのカロテノイド、そしてポリフェノールの一種であるフラボノイドなどです。
ぶどうの果皮・種子にはいろいろなファイトケミカルズが含まれています。発酵ぶどう食品K-FGFは甲州種ぶどうの果皮・種子を石臼で挽いて微粒子にしたものを植物性乳酸菌で発酵したものであり、ぶどうのファイトケミカルズと食物繊維を全て含んでいます。エキスではありません。
現在、ぶどうに関する世界で行われて研究は次のものです。
肺線維症は、間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患COPDに共通して生じるものです。慢性的な炎症が肺に起こるとガス交換を行う組織に、活性化した線維芽細胞が集積し、コラーゲンを大量に作り、肺線維症が引き起こされます。症状が酷くなると、呼吸困難になり、薬剤による治療が困難なため、致死的な疾患になります。
Liuら*は肺線維症の動物モデルにぶどう種子抽出物GSEを与えるとコラーゲンの沈着が抑制され、肺線維症が抑制されることを既に示していました。今回、GSEを50㎎/kg、100 mg/kgの用量で3週間経口投与したところ、炎症性細胞の浸潤、炎症性サイトカイン、コラーゲンに特徴的なアミノ酸の沈着が抑制され、肺機能も改善した。肺の炎症にかかわるMMP-9という酵素やTGF-βというサイトカインの発現が抑制されたので、肺線維症の患者のQOLの改善に役立つと示唆しています。(*Liu Q et al. Toxicol Lett. 2017 Mar 11.pii: S0378-4274(17)30106-6. doi: 10.1016/j.toxlet. 2017.03.012.)
慢性炎症が病気の原因であり、健康に悪さをすることが分ってきています。肺の炎症では、グルココルチコイドで誘導されるTNF-α受容体(GITR)や炎症を誘導するTh17A 細胞が増加し、Th1/Th2とTh1/Th17バランスが崩れます。ぶどう種子プロシアニジンエキス(GSPE)を与えると改善することが示されています(Ahmadら Infalmmation 2014, 37: 500-11).
珪肺症を示すラットにオレアノール酸を経口投与すると、肺の炎症が組織学的にも、生化学的にも、免疫学的にも抑制されることが示されたHai-Bing PengらMol Med Rep. 2017 May; 15(5): 3121-3128. doi: 10.3892/mmr.2017.6402. Epub 2017 Mar 28.
消毒薬のポリヘキサメチレングアニジンで誘導される肺の炎症と線維症が誘導されたマウスにオレアノール酸を投与すると症状が緩和された KIm MSら . Respir Physiol Neurobiol. 2018 Jun; 252-253:1-9. doi: 10.1016/j.resp.2018.03.001. Epub 2018 Mar 2.
ビタミンDと呼吸器疾患との関係は、冬場にビタミンDの血中濃度が低くなるとインフルエンザに罹り易いことからよく知られています。新型コロナウイルス感染症にビタミンDの効果について論文が発表されています。
ビタミンDは「ビタミン」と名がついていますが、ステロイドホルモンの一種で自分の皮膚の細胞で作られています。ビタミンDは「骨のビタミン」と認識されていましたが、今では「免疫のビタミン、ホルモン」として、TNF-α産生を抑制することで知られています。
ビタミンDは植物由来のD2と動物由来のD3があります。きのこなどにD2が多いので摂取を勧められていますが、実際は効果がありません。ビタミンD3が皮膚の細胞で作られると、脂溶性なのでタンパク質と結合します。肝臓の酵素で水酸基(OH基)が結合した25-OH-D3が通常ビタミンDの血中濃度として測定されます。残念ながら、日本ではビタミンDの血中濃度を一般的な検査で測定していません。世界的に、25-OH-D3の血中濃度が30ng/mL以上だと十分量とみなされています。29~20ng/mLだと不十分、19ng/mL以下だと欠乏状態です。韓国などの研究結果から8割程度が不十分か欠乏状態であり、日本でも同じだと推察されています。
ビタミンDは自分で作れますが、紫外線対策をしている方が多いので必要量を作ることができません。鮭などに多く含まれていますが、毎日必要量を食べるのは困難です。従って、サプリで摂取するのが一番です。古い考えですと、ビタミンDは副作用があるといいますが、最近の文献では、新型コロナ対策でビタミンDの血中濃度を40~60ng/mLにするためには、数週間毎日250μgを飲み、それから半量の125μgを毎日摂取という論文がありました。日本では上限が1日100μgです。市販のサプリでは1日25μgのビタミンD3の摂取を勧めています。
新型コロナでサイトカイン嵐による血栓症で重篤化することが報告されました。ウイルスが増殖するステージと免疫の暴走のステージに分けられます。免疫の暴走はTNF-αを始めとするサイトカインが大量に作られるため、血栓が生じ、血流が悪くなって肺の機能不全となり重篤化します。間質性肺炎でも急性増悪があります。新型コロナも間質性肺炎の急性増悪も大量のステロイド治療によってサイトカイン産生をストップさせています。
ビタミンDやファイトケミカルはTNF-α産生を抑制する働きがあることは数多くの研究論文から明らかです。冬場は特にビタミンDの血中濃度を上げることが、病気の予防に繋がるといえるでしょう。
Dengら*は結合組織に関連した間質性肺疾患(CTD-ILD)の患者では、血液中のビタミンD濃度が有意に低いことが示されました。
血清アルブミン濃度が低く、抗核抗体値が高いこととビタミンD濃度が低いことと関連していました。
*Deng M et al. Clin Exp Rheumatol 2018 Nov-Dec; 36(6): 1049-1055. Epub 2018 May 24