生まれつき胃腸が良くない、ストレスや食生活の乱れで胃腸の具合が悪い、加齢に伴い食の好みが変わってきた、など胃腸の良否は健康に直結します。
腸は栄養を消化吸収するだけでなく、免疫組織として重要な働きをしています。また、腸と脳は連結しており、腸の不調は脳に影響を与えます。
腸内細菌叢は免疫と連携しています。どんな食べ物を食べるかによって腸内細菌のパターンが変わってきます。帝王切開でなく、通常の分娩で産まれると、母親の膣の細菌叢が赤ちゃんに伝えられます。腸内細菌叢は生活パターンと直結しています。
脂身が多い高脂肪食を食べ、糖質(炭水化物)を制限すると、炭水化物を栄養源としている細菌群、例えば、グラム陰性菌のバクテロイデス門に属する細菌群は炭水化物が必要なので激減し、逆に悪玉菌であるクロストリジウム属細菌群が増えていきます。悪玉菌が増えると、悪玉菌によって胆汁酸(コール酸)がデオキシコール酸に変わります。これが再吸収されて肝臓に取り込まれると、肝臓がんを引き起こす原因になる場合があります。
ハンバーガー、フライドポテト、ポテトチップス、コーラといったアメリカ食は人気がありますが、高脂肪食であり、コーラなどの甘味飲料には果糖ブドウ糖液糖が含まれています。最近、ポテトを油で揚げることで有害なアクリルアミドが作られることも分かってきました。
好きなものを好きなだけ食べるというバイキング方式・カフェテリア式で食事をすると、どうしても食べ過ぎになります。腹が膨れると、普通レプチンが分泌され、「満腹」だというレプチンの指令が脳に行き、食べるのをストップします。しかし、「ケーキ」は別腹という「自発性過食症」になると、栄養の摂りすぎのためメタボリック症候群へ一直線となります。
「腹八分目」、「腹七分目」というように食べ過ぎないのが重要です。飢餓遺伝子であるサーチュイン遺伝子が活性化され、健康になります。ぶどうに含まれているレスベラトロールがこの遺伝子を活性化するので脚光を浴びていますが、多量に摂取すると変異原性があって良くないのです。今ではニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が良いとされています。
大腸に住んでいるビフィズス菌は善玉として働いています。また、酪酸生産菌は短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を生産し、酪酸が吸収されて免疫をコントロールする制御性T細胞(Treg)を作り出すのに役立っています。酪酸生産菌の栄養素は水溶性食物繊維であり、水溶性食物成分を一番多く含んでいるのがもち麦です。菊芋のイヌリン(果糖の多糖体フラクタン)も栄養素です。外から飲んだ乳酸菌やビフィズス菌が定着しないのは、もともといる細菌群と栄養の取りあいに負けるためです。従って、ビフィズス菌や酪酸生産菌の好む水溶性食物繊維が多い食品を摂取することが大事です。
腸の蠕動運動があると、便秘にならず便が排出されます。胆汁酸(コール酸)が受容体のTGR5に結合すると蠕動運動が刺激されます。水溶性食物繊維があるとコレステロールを巻き込んで、コレステロールを肝臓に戻さないで腸内へ排出させます。薬でコレステロール合成を止めるよりも、排出を促進する方が体に合っていると思います。コール酸の受容体TGR5にオレアノール酸が結合して蠕動運動を刺激します。オレアノール酸を含む食品を食べると蠕動運動を刺激することになります。発酵ぶどう食品K-FGFの主成分の一つがオレアノール酸です。
炎症性腸疾患は食の欧米化により右肩上がりに患者数が増えています。炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎やクローン病があります。これらは腸の炎症であり、何らかの原因によってTNF-αが作られ炎症が起きる難病です。
潰瘍性大腸炎はDDSという薬物を投与することで類似した症状を誘導することができます。DDS誘発モデルに発酵ぶどう食品K-FGFを投与すると、下血と腸管が短くなる症状が用量依存的に有意に改善されました。
また、TNF-α産生も有意に抑制されていました。潰瘍性大腸炎は大腸がんにも繋がりますが、抗TNF-α抗体が効果を示す疾患です。ある大学病院の先生との共同研究を行ったところ、劇的な効果を示す患者様もおられましたが、症例が少ないのでこれからの課題です。